東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5578号 判決 1978年5月25日
(甲事件)
原告 小町陽彦
原告 鈴木初五郎
(乙事件)
原告 伊藤正雄
<ほか五八名>
(丙事件)
原告 小町直太郎
右原告ら訴訟代理人弁護士 萩原平
同 萩原武彦
右原告小町陽彦、同鈴木初五郎両名の甲事件について弁護士萩原平訴訟復代理人・右原告両名の乙事件、右原告両名を除く原告ら訴訟代理人・弁護士 横山弘美
右原告森谷清子、同森谷晴一、同中田允子、同森谷以知子、同鈴木理夫、同小町直太郎訴訟代理人・その他の原告らについて弁護士萩原平訴訟復代理人・弁護士 村越進
被告 千代田建物株式会社
右代表者代表取締役 マイケル・アール・エイチ・パーウェル
右訴訟代理人弁護士 中元紘一郎
同 林紘太郎
同 千田洋子
主文
一 甲事件について。
1 訴えの変更前の旧請求について。
原告小町陽彦、同鈴木初五郎の各土地所有権移転登記手続請求をいずれも棄却する。
2 訴えの変更後の新請求について。
(一) 原告小町陽彦と被告との間において、同原告が、
(1) 別表第三のの供託金のうち金一九六〇万一二三二円、
(2) 同の供託金のうち一六万六六一〇円、
(3) 同の供託金
について、それぞれ還付請求権を有することを確認する。
(二) 原告鈴木初五郎と被告との間において、同原告が、別表第三のの供託金について還付請求権を有することを確認する。
二 乙、丙事件について。
別表第二(A)欄記載の原告らのそれぞれと被告との間において、右各原告らが(ただし、右(A)欄に持分の記載のある原告はその持分に応じて)、当該原告の(C)欄記載の各土地について、それぞれ河川法施行令(昭和四〇年政令一四号)四九条の規定に基づく廃川敷地の公示のなされたときは、旧河川法(明治二九年法律七一号)四四条ただし書の規定に基づく当該廃川敷地下付の請求権を有することを確認する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一原告らの請求の趣旨
一 甲事件について。
1 交換的訴えの変更前の旧請求(以下「旧請求」または「旧訴」という。)
被告は、
(一) 原告小町陽彦に対し別表第一の(あ)の各土地について、それぞれ大正三年四月二〇日東京法務局立川出張所受付第七二一号の各所有権移転請求権保全仮登記に基づき、
(二) 原告鈴木初五郎に対し、別表第一の(い)の土地について、前同日同法務局同出張所受付第七二七号の所有権移転請求権保全仮登記に基づき、
それぞれ本登記として所有権移転登記手続をせよ。
2 右訴えの変更後の新請求(以下「新請求」または「新訴」という。)
主文一項の2と同旨
二 乙、丙事件について。
1 主位的請求
主文二項と同旨
2 予備的請求
別表第二(A)欄記載の原告らのそれぞれと被告との間において、当該原告の(C)欄記載の各土地について、当該原告の(B)欄記載の者が、それぞれ大正一二年八月ころ所有権(ただし、当該(B)欄に持分の記載のある者についてはその共有持分)を有していたことを確認する。
三 主文三項と同旨
第二右請求の趣旨に対する被告の答弁
一 甲事件について。
1 旧請求
主文一項の1と同旨
2 新請求
(一) 本案前の申立て
原告らの請求は、いずれも訴えを却下する。
(二) 本案の申立て
原告らの各請求をいずれも棄却する。
二 乙、丙事件について。
1 本案前の申立て
原告らの請求は、いずれも訴えを却下する。
2 本案の申立て
原告らの各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
第三原告らの請求原因
一 別表第一ならびに別表第二の(C)欄の各土地(以下、これらの各土地を総称して「本件土地」という。)は、もと、当該(B)欄記載の者ら(以下それぞれ「契約者」という。)がそれぞれ所有(別表第二の(の)、(は)の各契約者は、いずれも当該(B)欄記載の持分をもって共有)していた。
二 被告は、もと商号日本共同石材株式会社であったが、大正六年三月一二日旧商号浅野石材株式会社に変更し、昭和二二年一〇月二九日右旧商号を現商号に変更した。
三1 本件契約の締結
別表第二の(け)、(こ)、(は)の各土地は大正三年四月一三日付、別表第二の(か)、(の)の各土地は同月一六日付、その他の本件土地は同月一日付で、各契約者は被告との間において、それぞれ当該土地について契約を締結した(以下、これらの各契約を総称して「本件契約」という。)。
2 本件契約は、被告が砂利、礫砂等を採取することを目的とし、期間を大正一三年三月三〇日まで一〇年間と定めて、当該土地を使用する旨の砂利採取契約である。
四 被告の本件土地所有権取得の登記
そして、本件契約に基づいて、被告は、
1 別表第二の(け)、(こ)、(は)の各土地についてはいずれも大正三年四月一六日に同月一三日付売買を原因とする各所有権取得の登記を、
2 別表第二の(か)、(の)の各土地についてはいずれも同月一六日に同日付売買を原因とする各所有権取得の登記を、
3 その他の本件土地についてはいずれも同月一四日に同月一日付売買を原因とする各所有権取得の登記を、
それぞれ経由した。
五 契約者らの仮登記の経由
1 そして、亡小町米吉は、別表第一の(あ)の各土地について大正三年四月二〇日東京法務局立川出張所受付第七二一号をもって、同日贈与契約により右小町米吉に大正一三年三月三〇日所有権を移転する請求権保全の仮登記を、
2 亡鈴木初五郎(慶応元年生)は、別表第一の(い)の土地について大正三年四月二〇日同法務局同出張所受付第七二七号をもって、右鈴木初五郎のために右と同じ原因による所有権移転請求権保全仮登記を、
3 また、別表第二の各契約者も当該土地について、いずれも同日当該契約者のために右と同じ原因による所有権移転請求権保全仮登記を、
それぞれ経由した。
六 本件土地の一部の河川敷地編入(乙、丙事件)
別表第二の各土地は、大正一二年八月六日に河川敷地(附属の堤防敷地を含む。以下同じ。)に編入された。
七 本件土地の一部の収用(甲事件)
別表第一の各土地は、昭和四九年二月二七日東京都に収用され、東京都は同月二八日右収用による所有権移転登記を経由し、前記各仮登記は同年七月二四日右収用により抹消された。そして、東京都はその補償を別表第三のとおり供託した。
八 本件契約と所有権の変動
1 本件土地の信託的譲渡
本件契約の締結にともなう本件土地の所有権の実質的移転はなかった。本件契約の締結にともない被告が前記各所有権取得の登記を経由したのは、被告の行なう砂利採取等の権利を第三者に妨害されることを防止する目的から、前記の本件契約存続期間一〇年を限って、本件土地を、信託的に譲渡したのに過ぎない。したがって、本件契約の締結にともない本件土地の所有権は外部的にも内部的にも移転していない。たとえ、外部的に移転したとしても、少なくとも内部的には移転していない。
また、たとえ、内外ともに所有権が移転していたとしても、被告は右信託的譲渡契約に基づいて、受託者としてその目的に従って砂利等の採取権しか有しなかったから、別表第一の各土地については、契約期間満了の大正一三年三月三〇日もしくは同期間の延長のあったときは昭和九年三月三〇日に信託者たる契約者ないしその相続人にその所有権が復帰した。また、別表第二の各土地については、その河川敷編入の直前に信託的譲渡契約が当然に終了し、その所有権は信託者たる契約者ないしその相続人に復帰した。
2 通謀虚偽表示
仮に本件契約の締結にともない本件土地の所有権の移転があったとしても右各所有権移転の契約はいずれも前記のとおり被告の砂利採取等を第三者に妨害されることを防止する目的から、通謀虚偽表示に基づいてなされたものであり、無効である。
3 確定期限付贈与
(一) 仮に右各所有権移転が有効であったとしても、本件契約において、被告は当該契約者に対し、本件契約存続期間終了のときを確定期限として、被告から当該契約者に対し当該土地所有権(別表第二の(の)、(は)の各土地については当該持分)を無償で譲渡することを約した。
(二) (乙、丙事件)
しかるところ、別表第二の各土地は前記の大正一二年八月六日河川敷地編入の直前ころ、当然に、本件契約が終了した。
したがって、遅くとも右大正一二年八月六日までにもしくは契約期間満了の大正一三年三月三〇日に、本件契約の期間終了により、当該契約者もしくはその相続人は、贈与により当該土地所有権ないし持分を取得した。
(三) (甲事件)
(1) 別表第一の各土地は、大正一三年三月三〇日本件契約期間の満了により、当該契約者もしくはその相続人が前記贈与契約により当該土地所有権を取得した。
(2) 仮に右大正一三年三月三〇日に右契約期間が満了しなかったとしても、本件契約の存続期間が更に一〇年間延長されたので、昭和九年三月三〇日本件契約期間の満了により、右契約者ないしその相続人は前記贈与により当該土地所有権を取得した。
九 原告らは、別表第四のとおり各契約者を相続している。
一〇 したがって、原告小町陽彦は別表第一の(あ)の各土地について、同鈴木初五郎は別表第一の(い)の土地について、それぞれ前記当該供託金の還付請求権を有する者である。
また、原告らは、別表第二の当該(C)欄記載の各土地について、旧所有権者の相続人(ただし、別表第二の当該(A)欄に持分の記載のある者はその持分の限度で)として、河川法施行法(昭和三九年法一六八号)一八条の規定により、なおその効力を有する旧河川法(明治二九年法七一号)四四条ただし書所定の者であり、河川法施行令(昭和四〇年政令一四号)四九条所定の廃川敷地の公示のあるときは、その下付請求権を有する者である。
一一 よって、
1 (甲事件)
(一) 旧請求
原告小町陽彦は別表第一の(あ)の各土地について、同鈴木初五郎は同(い)の土地について、それぞれ被告に対して、前記各仮登記の本登記としての所有権移転手続を求め、
(二) 新請求
原告小町陽彦は別表第一の(あ)の各土地に関する前記供託金(所有権者分)の還付請求権を有することの、同鈴木初五郎は同(い)の土地に関する前記供託金の還付請求権を有することの各確認を求め、
2 (乙、丙事件)
(一) 主位的請求
原告らはそれぞれ別表第二の各当該土地について旧所有権者(もしくは持分権者)の相続人として前記公示のあるときに前記廃川敷下付の請求権を有することの確認を求め、
(二) 予備的請求
原告らはそれぞれ別表第二の各当該土地について大正一二年八月ころ別表第二の当該原告の(B)欄記載の契約者が所有権ないし持分権を有していたことの確認を求める。
第四訴えの変更に関する被告の申立て
(甲事件)
原告小町陽彦は別表第一の(あ)の各土地について、同鈴木初五郎は同(い)の土地について、それぞれ所有権移転請求権保全仮登記に基づく本登記手続を求める旧訴を変更し、新訴としてそれぞれ右各土地の収用補償供託金について還付請求権を有することの確認を求めるが、右旧訴と新訴との間には請求の基礎の同一性を欠くので、訴えの変更は許されず、被告はこれに同意しない。
第五被告の本案前の主張(乙、丙事件)
一 当事者適格、訴えの利益の欠缺
旧河川法四四条ただし書の規定に基づく廃川敷地の下付請求権は、当該河川敷地の公用が廃されたときに、はじめて法的な権利として創設されるのであって、その公用廃止前は、なんら権利としての実体を有さず、単なる期待利益に過ぎない。河川法施行令四九条、同附則七条によれば、河川敷地は管轄行政庁による廃川敷の告示があってはじめて廃川敷となるところ、別表第二の各土地は本件口頭弁論終結時において未だ管轄行政庁たる建設大臣の廃川敷告示のなされる見込みはない。したがって、右各土地が廃川敷であることを前提とし、その下付請求権を有することの確認を求める原告らは、当事者適格がなく、その訴えは確認の利益を欠いている。
二 当事者適格の欠缺
別表第二の各土地は、大正一二年八月六日河川敷地に編入され、同時に私人の所有権の対象とならない土地となり、昭和四〇年四月一日施行河川法施行法四条の規定により国有地となった。したがって、たとえ、右各土地が右大正一二年八月六日当時、契約者ないしその相続人の所有であったとしても、右の者らが死亡または隠居の時には、当該土地は既に右の者らの所有でなく、いずれも相続財産には含まれていなかったのであるから、右各土地に関する相続、遺産分割協議ないし相続の放棄はすべて無効であり、原告らは各主張の土地を相続していなかったことになり、原告らは当事者適格を有しない。
三 予備的請求の訴えの利益の欠缺
予備的請求は、単なる過去の事実の確認を求めるものであり、訴えの利益がない。
第六右本案前の主張一に対する原告らの反ばく
別表第二の各土地は、私有地として下付された後に収用することを前提として、既に東京都下水道局が汚水処理場建物を建設完成しており、河川敷地の目的に供しないことを相当とする事実が生じていることは明らかである。原告らは、その廃川敷告示がなされるときは、直ちに下付請求手続をとらねばならず、国としては、これに応じて下付すべき義務を負うことになり、それゆえ原告らの権利は極めて確実性の高い内容を有するものである。しかるに、被告は右下付請求権は自己にあるとして争っているのであるから、右告示がなされ、原告らが下付請求手続をした場合、被告が自己に下付請求権があるとして原告らへの下付を妨害するおそれがあるから、原告らは、河川法施行法一八条、旧河川法四四条ただし書により下付請求を求める法律上の地位について存する右のような危険を除去するため、被告との間において、原告らがそれぞれ下付請求権を有することの確認を求める利益がある(最高裁判所昭和四六年一月二〇日大法廷判決・民集二五巻一号一頁、東京高等裁判所昭和五〇年九月二三日判決・下民集二六巻九~一二号八一頁参照)。
第七請求原因に対する被告の認否等
一 請求原因一、二、三の1、四ないし七の事実は認める。
同三の2、八、一〇の事実は否認する。同九の事実は不知。
二 本件契約は譲り戻し特約付売買である。すなわち、本件契約は、本件土地を売買の時から一〇年の後に買主から売主に無償で譲り戻すことを合意したものであり、別表第一の各土地は大正一三年に譲り戻しの時期を一〇年間延長したのである。
ちなみに、右譲り戻し請求権は、売主において大正一三年四月から起算して一〇年後である昭和九年四月ころ取得したが、遅くとも昭和九年四月から起算して二〇年を経過した昭和二九年四月ころ時効により消滅している。
第八自白の撤回に関する被告の異議
一 (甲事件)
原告小町陽彦、同鈴木初五郎は、昭和四九年九月一九日の甲事件(乙、丙事件併合前)第二回口頭弁論期日において、訴状の陳述により、別表第一の各土地について大正三年当該契約者から被告にその所有権の移転したことを、事実上の陳述を含む法律上の陳述として、先行自白(権利自白)し、被告は昭和四九年一二月五日の甲事件(同前)第四回口頭弁論期日において、同日付被告準備書面の陳述により、右「所有権の移転」を認め、右自白を援用した。
被告は右原告らの自白の撤回に異議がある。
二 (乙、丙事件)
右原告小町陽彦、同鈴木初五郎による土地所有権の被告への移転の陳述は、別表第一の各土地についてのみなされたものであるが、数個の請求が弁論併合の決定により併合審理される場合は、当事者の陳述する事実は、これと関連する請求につき、それぞれ訴訟資料となる(最高裁判所昭和四三年一一月一九日第三小法廷判決・民集二二巻一二号二六九二頁参照)から、別表第二の各土地についても原告ら主張本件契約の日に各契約者から被告に対して、それぞれ当該土地の所有権が移転した旨原告らが先行自白したことになり、被告が前記のとおり既にこれを認めて援用している以上、原告らはこれに反する主張ができない。
被告は別表第二の土地についても自白の撤回に異議がある。
第九証拠《省略》
理由
一 訴えの変更について(甲事件)
本件交換的訴えの変更は、原告小町陽彦、同鈴木初五郎が当該各土地の各仮登記に基づく本登記として所有権移転登記手続を求める旧訴を提起(旧訴提起の日が昭和四九年五月三〇日であることは記録上明らかである。)した後である昭和四九年七月二四日に、右土地について、いずれも同年二月二七日収用を原因として右各仮登記が抹消され、すでに右各土地について別表第三のとおり収用の補償が供託されていたところ、右原告らは、各新訴により右供託金の還付請求権を有することの確認を求めるのであるから、旧訴と新訴との間に請求の基礎に変更はないものと認められ、被告の申立ては理由がない。
しかし、旧訴の取下げについて被告は結局同意しないので、右旧訴についてみるのに、後記のとおり当該土地は収用されているのであるから、もはや旧請求の理由のないことは明らかである。
二 被告の本案前の主張(乙、丙事件)一、二について
《証拠省略》によると、別表第二の各土地は、昭和五三年一月現在建設省関東地方建設局において、当該国有河川敷地と民有地との境界等を明確にするための測量中であり、右測量の完了次第、昭和五三年中に河川法施行令四九条の規定に基づく廃川敷地等の公示を予定していること、そして、既に右公示に続く下付の後に東京都において収用することを前提として、東京都下水道局が同地上に多摩川上流処理場建物の建築を完成していることが認められ、これに反する証拠はない。
右認定事実によると、近く右公示のなされることは確実であるというべきであり、原告らは、右公示により発生するというそれぞれの法的地位について、既に右のような事情にある本件の場合は、あらかじめ、右公示のあるときに当該廃川敷地下付の請求権のあることの確認を求める法律上の利益を有すると認めるのが相当であって、本件の場合は、右公示のあったときにはじめて訴えの利益をそなえるという被告の見解は採用できない。
また、別表第二の各土地が大正一二年河川敷地編入後は私権の対象とならず、原告らは、なんらその所有権ないし持分権を相続していないから当事者適格がないとする被告の主張は、旧河川法四四条ただし書の規定の趣旨を正解しないことに基づくものであって、これに基づく被告主張は採用の限りでなく、右河川敷地編入の際の右各土地のもと所有者ないし持分権者たるの地位の相続人としての原告らの請求は、その主張自体、なんらこれを否定すべき点はない。
三 当事者間に争いのない事実
請求原因一、二、三の1、四ないし七の事実は、当事者間に争いがない。
四 本件契約の法的性質(売買の成立)
被告は、被告が契約者らから売買により本件土地の各所有権を取得したと主張(抗弁)するので、これについて判断する。
まず、自白の撤回に関する被告の異議についてみるのに、なるほど甲事件訴状によると、大正三年亡小町米吉、亡鈴木初五郎(慶応元年生)から被告にそれぞれ当該係争「土地の所有権を移転した」との記載があり、また、大正一三年に当然に被告から右亡小町米吉、亡鈴木初五郎に当該土地の「所有権が復帰」する旨などの記載があり、記録によると、原告小町陽彦、同鈴木初五郎が昭和四九年九月一九日の甲事件第二回口頭弁論期日でこれを陳述したことは明らかである。しかしながら、右各陳述は、大正三年四月二〇日贈与契約による大正一三年三月三〇日所有権移転請求権保全仮登記に基づく本登記手続を請求するという旧訴の請求原因事実に関連してなした陳述であって、新訴における被告の抗弁事実、すなわち売買による本件土地全部の所有権取得の主張を、別表第一の各土地についてのみ既に先行自白していたものと解することは困難である。したがって、その他の判断をするまでもなく被告の異議は理由がない。
ところで、前示請求原因一、二、三の1、四の事実、《証拠省略》によると、契約者らと被告とは、大正三年三月三〇日、契約者らが売主、被告が買主となって、契約者ら所有(または共有)の本件土地を含む合計一六町四反三畝一七歩の土地について、その代金総額を四五〇五円五三銭二厘と定めて売買する契約を締結したこと、ただし、大量の所有権移転登記申請手続の都合上、これらの土地の売買証書では、その売買日付を同年四月一日付、同月一三日付、同月一六日付の三群に分けて処理したことが認められ(る。)《証拠判断省略》
原告らは本件土地について信託的譲渡がなされたと反論するが、本件契約を特に信託行為であると認めるべき証拠は何もない。
五 通謀虚偽表示
そこで、原告らの通謀虚偽表示の主張(再抗弁)を判断するに、前示請求原因五の事実、《証拠省略》によると、大正年間から昭和初年にかけて本件土地付近の多摩川流域における砂利、礫砂等採取事業は活況を呈していたこと、砂利等の採掘等を会社の目的とする被告は、砂利等採掘のため本件契約を締結したが、他業者の競業を防止し排他独占的に前記契約土地一六町四反三畝一七歩から砂利等を採取するという目的のみから本件契約を締結したこと、前記代金四五〇五円五三銭二厘というのも真実は契約期限大正一三年三月三〇日まで向う一〇年間の砂利等採取による土地使用の対価であったこと、そして、無償の譲り戻しと称して請求原因五のとおり、本件契約直後の大正三年四月二〇日に、各売主のため同日付贈与契約による大正一三年三月三〇日所有権移転の請求権保全の仮登記を経由したのも、本件契約にともない被告にこれらの契約土地の所有権移転登記がなされたのを登記上是正する方法としてなされたのにほかならないことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。
右の事実によれば、前記売買契約は、売主、買主ともに真実目的土地の売買をするのではなく、期間を一〇年とする砂利等採取を目的とする土地使用に関する契約を締結する意思であったのに過ぎないというべきであり、したがって、前記売買は、すべて通謀虚偽表示に基づくものであり、無効である。
六 請求原因九の事実は、《証拠省略》により、これを認めることができ、これに反する証拠はない。
七 結論
したがって、原告小町陽彦、同鈴木初五郎は、各主張の供託金(所有権者分)還付請求権を有し、また、原告らは、各主張の土地について、河川法施行令四九条所定の廃川敷地の公示のあるときは、各主張の下付請求権を有する。
よって、甲事件について、旧請求を棄却して新請求を認容し、乙、丙事件について主位的請求を認容し、民訴法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 平田孝)
<以下省略>